その他の暗号方式

カオス暗号

カオスとは
あるシステムが「ある時点での状態(初期値)が決まればその後の状態が原理的にすべて決定される」という決定論的法則に従っているにも関わらず，非常に複雑で不規則かつ不安定なふるまいをして次の状態における予測が不可能な現象である．
カオス暗号
カオス暗号方式は，カオス関数でカオス信号を発生し，このカオス信号で暗号文を複雑化し，暗号強度を高くする．カオス暗号方式は，カオス関数における次の特性を利用する．
- 初期値に敏感な性質
- 一方向性
- 奇妙なアトラクタ
過去に数々のカオス暗号の提案があるが，カオス暗号で安全性が合理的に説明されたものは存在しない．なお，カオス暗号とは，カオス現象を利用した暗号方式のことであり，特定の暗号アルゴリズムのことではない．
カオス関数として，以下のロジスティック関数がある．

ロジスティック写像 (関数)
ロジスティック写像は，生物の個体数が世代を重ねることでどのように変動していくのかのモデルとして説明されている．これは，ロジスティック関数と呼ばれる次の差分方程式を用いて生物の個体数の変動が解析されている．
X_n+1 = a X_n(1 - X_n)　(n = 0, 1, 2,・・・)
a ≧ 4 のとき，X_n はカオス系となる．ここで， n は世代（n = 0, 1, 2, 3・・・），X_n は世代 n における個体数を規格化した値（0 ≦ X_n ≦ 1），a は繁殖率を示す．この式より，ある世代の個体数がわかれば，次の世代の個体数が計算できる．この写像をロジスティック写像という．

耐量子計算機暗号

量子計算機
量子計算機には，以下の種類がある．
- 量子ゲート方式
  古典コンピュータの電子回路に代わって量子ビットと量子ゲートを並べてこれまでのコンピュータ以上の計算能力を得ることを目的としたものである．理論通りに完成すれば，既存の公開鍵暗号を無力化する．
- 量子アニーリング方式
  組み合わせ最適化問題など特定の問題に特化したものである．量子アニーリング方式は，公開鍵暗号への脅威となることはない．
耐量子計算機暗号とは
公開鍵暗号技術として，現在 RSA暗号や楕円曲線暗号などが使われている．これらの公開鍵暗号系の安全性は，計算量的安全性である．すなわち，素因数分解問題や離散対数問題が現在の計算機では効率的には解けないことを前提にしている．しかし，量子計算機が実用化されて利用されるようになると，これらの問題は簡単に解読されてしまうことが証明されている．そのため，量子計算機を用いても簡単に解読することのできない暗号方式の開発が求められている．このような量子計算機でも解くことが難しい暗号は，耐量子計算機暗号と呼ばれ様々な方式が提案，研究されている．
暗号方式例
量子計算機でも効率的に解けないと考えられる NP 困難問題や NP 完全問題に基づく公開鍵暗号方式が提案されている．
- ナップザック暗号
  部分和問題を暗号文の生成に利用
- 格子暗号
  格子における最短ベクトル問題の利用
- 多変数暗号
  連立代数方程式の求解問題の利用
- 代数局面暗号
  代数局面上のセクションを求める問題 (求セクション問題) の利用

量子鍵配送

量子暗号を使った鍵配送
光子の偏向方法や電子のスピン状態を利用して情報を伝送する．その偏向やスピンの状態に適した測定装置で測定しないと不確定性原理のためその状態が変化し盗聴者の盗聴が検出できる．
バーナム (Vernam)暗号への適用が考えられている．すなわち，バーナム暗号における秘密鍵の共有に量子暗号を利用する．
情報の共有
1. 送信者 A は，4 つの偏光（水平，垂直，45°，135°) から等確率で 1 つの偏光をランダムに n 回選び受信者 B に送る．
2. B は，0°系測定器を用いるか 45°系測定器を用いるかを n 回ランダムに決めて測定する．その n 回分の測定器の種類を公開通信路を通して A に送る．
3. A は B の測定が正しい測定器で行われたかどうか（水平垂直偏光を0°系測定器で，45°/135°の偏光を 45°系測定器で測定したかどうか）の情報を B に知らせる．
4. B は正しく測定できているところの情報のみを取り出す．
盗聴検出
1. 送信者 A と受信者 B は，正しく測定できた情報からランダムに k 個選び，公開通信路を通してその k 個の内容が一致していることを確認する．
2. k 個の中に一致しないものが 1 個でもあれば，盗聴されたものとして全てのデータを破棄し，最初からやり直す．
3. k 個すべてが一致すれば，盗聴が無かったものと判断する．このとき，この k 個の情報を捨て去り残りの情報を A と B との共有情報とする．