ソフトウェア保守
ソフトウェア保守の技術的内容は,JIS規格 (JIS X 0161) で規定されている.
この規格は,ソフトウェア保守活動を管理し実行するための繰り返しのプロセスを定めており,ソフトウェア製品の規模,複雑度,完全性又は適用対象にかかわらず使用される.設定された基準は,ソフトウェア製品を存続させるためのソフトウェア保守活動の計画及び遂行と同様に,開発中のソフトウェアに対する保守計画にも適用される.
なお,JIS X 0161 の対応国際規格は以下である.
ISO/IEC 14764: 2006,Software Engineering - Software Life Cycle Processes - Maintenance
保守のタイプ
- 訂正
- 是正保守 (corrective maintenance)
ソフトウェア製品の引渡し後に発見された問題を訂正するために行う受身の修正 (reactive modification). この修正によって,要求事項を満たすようにソフトウェア製品が修復される.
是正保守の一部として,緊急保守 (emergency maintenance) がある.是正保守実施までシステム運用を確保するための一時的な修正である.
- 予防保守
ソフトウェア製品の潜在的な障害が運用障害になる前に発見し,是正を行うたための修正(予想される問題を未然に予防するために行う修正).
- 改良
- 適応保守
ソフトウェア製品の引渡し後に変化した又は変化している環境において,ソフトウェア製品を使用できるように保ち続けるために実施する修正.
適応保守は,環境の変化に歩調を合わせて実施する必要がある.例えば,OSの更新が必要になったとき,新OSに適応するために幾つかの変更が必要になる場合がある.
- 完全化保守
将来に渡りより問題が発生し難い構造にするために行う修正.
利用者のための改良,プログラム文書の改善,ソフトウェアの性能強化,保守性などのソフトウェア属性の改善を含んでいる.
保守プロセス
保守プロセスは,既存ソフトウェア製品の完全性を維持しつつ,修正を行うために必要な次のアクティビティ及びタスクから構成される.
- プロセス実装
保守プロセス内で実行されるべき計画及び手続を確立する.
このアクティビティの出力は,次のものである.
- 保守計画
- 訓練計画
- 保守手続き
- プロジェクト管理計画
- 問題解決手続き
- 測定計画
- 保守マニュアル
- 利用者フィードバック計画
- 引継ぎ計画
- 保守性アセスメント
- 構成管理計画
- 問題分析及び修正の分析
問題分析及び修正の分析アクティビティを通じて,次のことを行う.
- 修正依頼・問題報告の分析
- 問題の再現又は検証
- 修正実施に関する選択肢の用意
- 修正依頼・問題報告,結果及び修正実施の選択肢の文書化
- 選択した修正選択肢に対する承認の取得
このアクティビティの出力は,次のものである.
- 影響分析
- 勧告された選択肢
- 承認された修正内容
- 更新された文書
- 修正の実施
修正の実施アクティビティを通じて,ソフトウェア製品の修正及びテストを行う.
このアクティビティの出力は,次を含むことが望ましい.
- 更新されたテスト計画及びテスト手順
- 更新された文書
- 修正されたソースコード
- テスト報告
- 測定値
- 保守レビュー及び受入れ
システムの修正が正しく,かつ正しい方法を用いて承認された標準に従い完了していることを確認にする.
このアクティビティの出力は,次のものである.
- 受け入れられた修正を組み込んだ新ベースライン
- 却下された修正
- 受入れ報告
- 監査及びレビュー報告
- ソフトウェア適格性確認テスト報告
- 移行
システムの寿命が続く間,異なる環境の中で稼働させるためしばしば変更が必要となる.新しい環境にシステムを移行するためには,移行を成し遂げるために必要な処置とその移行に必要なステップを策定し,文書化する必要がある.このアクティビティの出力は,次のものである.
- 移行計画
- 移行ツール
- 移行したソフトウェア製品
- 目的及び完了の通告
- 測定値
- 保管データ
- 破棄
ソフトウェア製品が有用でなくなった場合には,廃棄する.廃棄するかどうかの判断を支援するために,経済性などの分析を実施することが望ましい.
フトウェア保守の戦略
ソフトウェア製品の保守に必要な人的資源及び物的資源の準備であり,保守概念の決定,保守計画 ,資源分析からなる.
- 保守概念の決定
- ソフトウェア保守の適用範囲
- 保守プロセス全体の定義
- 保守者の指名
- 保守費用の見積り
- 保守計画
保守アクティビティの計画を立てること,及びソフトウェア製品の保守への引継ぎと同時に資源が利用可能となるように,十分に早い段階で必要な資源を取得することである.
- 資源分析
必要な人員,保守環境及び財政的な資源を決める.